++コラム++


2010年3月19日(金)の日記


THE LONG AND SHORT OF IT ギネスが認定した「ノッポ」と「チビ」



この世で最も背の高いひと、そして(成人で)最も背の低いひとを
認定するギネス記録の最新版(2010年度)が発表されました。

冒頭の写真は、新聞の一面に大きくクローズアップされたもので
す。右側の背の高い人物がトルコ人のSultan Kosenさんで身長は
2メートル47センチだそうです。そのKosenさんをはるか下から
見上げている人物が中国生まれのHe Pingpingさんです。かれの
身長は74.6センチと記録されています。※1)

ふたりが立っているのは、ギネスブックの新版を公開するために
この一月、イスタンブールで開いたイベントの舞台です。

この写真を目にして、なんという残酷なコントラストなのかと思い
ました。そして、つぎに思ったことは、このような記録にいったい
どんな意味があるのか、ということでした。

この「最も背の低い大人」であるHe Pingping=ピンピンさんが今月
の13日にイタリアの病院で亡くなりました。死因は心臓発作。享年
21歳の若さでした。彼は先天的な“倭人症候群”の障害者で、名前
ほどには丈夫ではなかったようです。

ピンピンさんは、イタリアのテレビショーに出演中に倒れたようです
が、かれを対象とする映像の中には、世界一足の長い女性のスカート
の下で鎮座する場面など、ここでは到底UPするのをはばかれるよう
なものがあります。

ピンピンさんは、こうした下世話な好奇心を刺激する見世物巡業に出
ていた旅先で亡くなったのです。いわばかっての「小人レスリング」
と同様に被差別的存在それ自体を興業サービスの資源として生き続け
るなかで、今年あらたにギネス認定という「ハクをつける」ことで
自身のマーケットが広がろうとした矢先の客死でした。

「小人レスリング」を差別的だと非難するのは容易ですが、その興業
をつぶすことでかれらの仕事や暮らしを奪うことになるところまでは
考えが及ばなかったのではないでしょうか。同様にスカートの下に坐
しているピンピンさんや、そうさせているひとたちを「障害者を貶め
る“差別的行為”である」という理由だけで一方的に非難することは
できないようにも思います。

ところで、今年Sultan Kosen=コーセンさん(27歳)が“最長男”にな
ったのは、前年の記録保持者であったウクライナ人のLeonid Stadnyk
=スタドニクさん(39歳)がギネスブックに自分の名前が載ることを
拒否したので出番となったのです。

スタドニクさんは2メートル57センチとコーセンさんよりも10センチ
ほど高かったのですが、「もうこれ以上公衆の目にさらされたくない」、
「もし豊かさ(PROSPERITY)と静けさ(CALM)のどちらかを選ばなければ
ならないとしたら静けさをとります」とのべてギネス入りを断ったの
です。※2)

新しい最長男になったコーセンさんの身長が、けたはずれて大きく伸び
た原因としては、脳下垂体の腫瘍が過剰な成長ホルモンを分泌してきた
ことに由来しているそうです。いわば「巨人症(pituitary gigantism)」
に罹ることで背丈が伸長してきたのですが、その結果として今は杖なし
では歩行できない障害者になっているのです。

以下のサイトをクリックするとコーセンさんが両手に杖をもって歩いて
いる姿を見ることができます。一緒にいる兄弟の背は決して大きくない
のでコーセンさんの身長が遺伝に由来するのではないことがわかります。
http://www.msnbc.msn.com/id/32883570/

コーセンさんがギネス入りが決まったとき、かれが何を願っているかを
尋ねられて次のように答えています。

    “Up until now it's been really difficult to find
    a girlfriend,” Kosen said through an interpreter.
    “I've never had one, they were usually scared of me.   
    Hopefully now that I'm famous I'll be able to meet
    lots of girls. I'd like to get married.”

    いままでガールフレンドを見つけるのはとても難しかった
    です。こわがられていたせいか、ひとりもできませんでし
    た。でもギネス入りして有名になったので沢山の女の子た
    ちと出会うことができることでしょう。私はぜひ結婚した
    いです。※2)

冒頭の写真を見て、わたしは「なんという残酷なコントラストなのか」
と書きました。でも後になって、その思いは「巨人症」の“最長男”
と「倭人症」の“最短男”をフリーク(FREAK=奇形の怪物)とみなして
いるわたし自身の内奥の差別意識に根差していることに気づきました。

しかし、LONGESTもSHORTESTもその異形な外観のコントラストとは関係
なく血の通った自分の生き方をもとめています。すでにふれたように
一方では、ギネス入りを拒否するつよい“意思”があり、他方では
ギネスを契機にして結婚したいという“願い”があるのです。

かれらはそれぞれの障害(それがどんなに特異なものであれ)を
かかえ、人びとの好奇な目にさらされながらも、生身の人間として
生きる希望と欲求と意志を抱いている“生きられた存在”であること
にあらためて気づかされました。

※1)THE JAPAN TIMES,MARCH 17,2010(1)
※2)http://www.msnbc.msn.com/id/32883570/


No.706


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